なぜ契約書を読まないといけないのか
業務委託は、対等な事業者同士の契約です。労働者として保護される雇用契約とは違い、契約書に書かれた内容がそのまま適用されます。
「そんなつもりではなかった」は通りません。だから、契約前に読むことが唯一の防御になります。
以下、揉めやすい順に条項を挙げます。
1. 報酬の計算方法
最も重要な条項です。次を確認してください。
- 件数制か、日額保証か、時間制か
- 単価表が添付されているか(本文に「別途定める」とだけ書いてあり、単価表がない契約は危険です)
- 時間指定、大型荷物、遠距離などの加算があるか
- 不在・持ち戻りの場合の扱い
- 集荷業務や仕分け作業に報酬が付くか
特に見落とされるのが最後の項目です。積み込み前の仕分けに1時間かかるのに、その時間が無報酬という契約があります。拘束時間に対して報酬が発生するのかを確認してください。
2. 控除項目
報酬から差し引かれるものの一覧です。ここを見ずにサインすると、初回の支払いで驚くことになります。
- 車両リース料
- 保険料(任意保険、貨物保険)
- 端末・アプリの利用料
- システム利用料、管理費
- ユニフォーム代、備品代
- 源泉徴収の有無
控除の合計額を必ず計算してください。「単価は高いが控除も多い」契約と、「単価は普通だが控除がない」契約では、後者のほうが手取りが多いことがあります。
契約前に「月20日稼働、1日100件の場合、控除後にいくら振り込まれますか」と具体的に聞いてください。即答できない、あるいは書面で示せない相手は、その時点で警戒すべきです。
3. 締め日と支払日
いつ働いた分が、いつ振り込まれるか。この2つが明記されているか確認します。
月末締めの翌月末払いなら、初稼働から最初の入金まで最長2ヶ月近くかかります。この期間の資金繰りを計画するために、正確な日付が必要です。
なお、フリーランス法では発注事業者に対し、報酬の支払期日について原則として給付を受領した日から60日以内とするルールが定められています。これを大きく超える支払条件には注意してください。
4. 業務の範囲
どこまでがあなたの仕事かを定める条項です。曖昧だと、後から無報酬の作業が増えていきます。
確認すべきは、配送以外の業務(仕分け、荷積み、集荷、営業所での作業、報告書の作成)が含まれるかどうか。含まれるなら、それに対する報酬があるかどうかです。
5. 中途解約の条件
辞める自由があるかを決める条項です。
予告期間
何日前に伝えれば辞められるか。30日前が一般的です。90日以上の予告を求める契約は、拘束が強い。
違約金
中途解約時に金銭の支払いを求める条項があるか。金額と算定方法を確認してください。
車両リースの残債
契約と一体でリースを組んでいる場合、解約時に残債が発生します。ここが最も重い負担になります。
6. 損害賠償の範囲と上限
荷物の破損、事故、遅延によって損害が生じた場合、誰がどこまで負担するかを定める条項です。
確認すべきは、賠償額に上限があるか、保険で補填される部分がどう扱われるか、ドライバーの過失の程度がどう考慮されるかです。
上限のない無制限の賠償責任を個人に負わせる条項は、内容によっては問題となり得ます。不安を感じたら、サインする前に相談してください。
7. 専属義務
他社の仕事を受けてはいけない、という条項があるかどうか。
専属義務があると、収入源を分散できません。その会社の案件が減った時に、他で埋めることができなくなります。1社依存が契約上強制される状態です。
また、専属性の強さは労働者性の判断要素のひとつでもあります。この点は別の観点からも注意が必要です。
8. 契約期間と更新
期間の定めがあるか、自動更新か、更新時に条件が変わる可能性があるか。
「1年ごとの自動更新。ただし単価は毎年見直す」といった条項がある場合、更新のたびに条件が悪化する余地があります。
9. 競業避止義務
契約終了後、一定期間は同業の仕事をしてはいけない、という条項です。
この条項があると、辞めた後に同じエリアで軽貨物の仕事ができなくなる可能性があります。期間と範囲を必ず確認してください。過度に広範な制限は無効となる場合もありますが、争うには労力がかかります。
10. 車両の帰属
会社から車両を借りる場合、その扱いを確認します。リースなのか貸与なのか、修理費用は誰の負担か、事故時の修理費をどう分担するか、契約終了時に返却するのか買い取れるのか。
「実際にはそんなに厳しくやりません」「うちは違約金なんて取ったことないですよ」。こうした口頭の説明は、揉めた時に何の力もありません。重要な内容なら、書面に追記してもらうか、少なくともメールで確認を残してください。
サインする前にやること
- その場でサインしない。 持ち帰って読むと伝えてください。これを拒む相手とは契約しないでください。
- 写真を撮る。 契約書の全ページを撮影しておきます。控えをもらえない場合の保険になります。
- 家族か第三者に見せる。 自分だけで判断すると、期待で目が曇ります。
- 分からない条項を質問する。 質問に丁寧に答えるかどうかで、相手の姿勢が分かります。
- 控えを必ず受け取る。 署名した契約書の控えがない状態は、正常ではありません。
取引条件が書面等で明示されることは、フリーランス法上も発注事業者に求められている事項です。契約書を見せない、控えを渡さないという対応は、それ自体が警告信号だと考えてください。