求人の「月収70万円」は手取りではない
軽貨物の求人を見ると、月収40万円、50万円、70万円といった数字が並びます。この数字はほとんどの場合、あなたが受け取る報酬の総額、つまり売上です。会社員の求人票に書かれている月給とは意味が違います。
会社員の月給は、会社が社会保険料の半分を負担し、税金も源泉徴収された後に振り込まれます。軽貨物の業務委託にはその仕組みがありません。振り込まれた金額から、車を動かす費用も、健康保険も、年金も、税金も、すべて自分で払います。この違いを理解しないまま生活水準を上げると、確実に後で苦しくなります。
だからこの記事では、売上ではなく「最後に手元に残る金額」だけを見ます。
モデルケース:売上60万円のドライバー
例えば、宅配案件で週6日稼働し、月の売上が60万円になったドライバーを考えます。車両はリース、燃料は自己負担、インボイス登録済み、という一般的な条件です。あくまで一例であり、地域・案件・車両の条件で金額は変わります。
まず経費を引く
車を動かして仕事をする以上、毎月必ず出ていくお金があります。金額は目安です。
- 車両リース料:約5万〜6万円 — 車種と整備込みかどうかで変動します。
- 燃料代:約4万〜5万円 — 走行距離が長い案件ほど膨らみます。
- 事業用の任意保険:約1万5千円 — 年齢と等級で大きく変わります。
- 貨物保険:数千円 — 元請けが加入している場合は不要なこともあります。
- 通信費:約8千円 — 配送アプリを動かすスマホの回線代です。
- 駐車場代:約1万〜1万5千円 — 都市部ではもっと高くなります。
- 消耗品・備品:約5千円 — 台車、テープ、軍手、雨具、車内の備品類です。
- 高速代:約5千円 — 案件によってはゼロにも、数万円にもなります。
- 車検・整備の積立:約1万円 — 実際に払うのは先でも、毎月積んでおくべき費用です。
合計するとおおむね15万〜17万円。売上60万円に対して、経費率は25%から28%あたりに収まります。この時点で残りは43万円前後です。
多くの人が「経費を引いた43万円が手取りだ」と考えます。違います。ここからが本番です。会社員なら給与から天引きされていたものを、これから全部自分で払います。
次に社会保険料を引く
個人事業主になると、健康保険は国民健康保険、年金は国民年金に切り替わります。どちらも全額自己負担です。会社が半分払ってくれる制度はありません。
- 国民年金:月17,920円(令和8年度/2026年度の保険料)。所得に関係なく定額です。
- 国民健康保険:月3万円台になることも珍しくありません。前年の所得と自治体によって金額が決まるため、正確な額はお住まいの市区町村で確認してください。
注意が必要なのは国保です。国保の保険料は前年の所得をもとに計算されます。つまり開業1年目は安く、稼いだ翌年に本格的な請求が来ます。1年目の感覚のまま生活すると、2年目に資金繰りが崩れます。
最後に税金の積立を引く
所得税と住民税は、翌年にまとめて請求されます。給与のように毎月引かれないので、自分で積み立てておかないと支払い時期に現金が足りなくなります。
加えて、インボイス登録をしている場合は消費税の納付も発生します。免税事業者から課税事業者になった人が使える2割特例を適用すれば負担は軽くなりますが、ゼロにはなりません。
この規模の売上なら、所得税・住民税・消費税を合わせて毎月5万〜7万円程度を別口座に寄せておくのが安全です。正確な税額は所得控除の状況で変わるため、税理士か税務署で確認してください。
結論:自由に使えるのはいくらか
売上
60万円。求人広告に載る数字はここです。頑張った成果そのものではありますが、あなたのお金ではまだありません。
経費を引いた後
43万円前後。車を動かすための費用が消えた後の金額です。ここを手取りだと誤解する人が最も多いところです。
実際に使える額
30万円台前半。国保・年金・税金の積立まで引いた、本当の意味であなたが自由に使えるお金です。
売上60万円で、自由に使えるのは30万円台前半。約半分になります。これが軽貨物の現実です。
この数字をどう受け止めるか
半分になると聞いてがっかりする人もいるでしょう。ただ、会社員の額面月収30万円は手取り23万円前後です。軽貨物で売上60万円を安定させれば、手取りベースでは会社員の額面40万円台と同じ水準に立てます。決して割の悪い仕事ではありません。
問題は、この構造を知らずに始める人が多いことです。売上をそのまま生活費と考えて使い切り、翌年の国保と住民税の通知を見て青ざめる。軽貨物を辞める人の中には、稼げなかった人よりも、稼いだお金の管理に失敗した人が相当数います。
入金用の口座とは別に、もう1つ口座を作ってください。入金があったら、その日のうちに税金・国保・年金分をそちらへ移します。残った額だけが生活費です。この一手間だけで、翌年の資金繰りはまったく違うものになります。
売上を上げる前にやるべきこと
手取りを増やす方法は2つしかありません。売上を上げるか、出ていくお金を減らすかです。そして始めたばかりの時期に効くのは、圧倒的に後者です。
売上を1割増やすには、稼働日数か配達件数を1割増やす必要があります。体力も時間も使います。一方、経費と税負担の管理を整えることは、走る距離を1メートルも増やさずに手元の現金を増やします。青色申告の届出を出しておく、経費を漏らさず記録する、無駄な固定費を持たない。この3つだけで、年間で数十万円の差がつきます。
なお、報酬の支払期日や取引条件については、フリーランス法で発注側にルールが定められています。締め日と支払日が曖昧なまま働き始めないでください。
制度や保険料の金額は改正されます。この記事の数字は執筆時点の目安として読み、実際の手続きや金額は国税庁・日本年金機構・お住まいの自治体の公式情報で確認してください。